新刊! 「音楽学研究物語」
村井範子が語る日本における
音楽学研究のあけぼのとその時代
村井範子・中西紗織 著
A5判 368頁
定価3,300円[本体3,000円+税]
日本における音楽学研究の黎明期を支えた、偉大な女性研究者の物語。
「音楽というものは一瞬一瞬消えていくものでしょう。それを記録した楽譜、マニュスクリプト、そういうものが大切だったからライブラリが成り立ったわけよね。」
「研究者になりなさい。研究者が一番社会に貢献できるし、自分自身も精神的に豊かになれる。私の父、長田新がいつもそう言っていたの。研究者、いいでしょう。」
第1章 生い立ちと母父のこと
第2章 育った環境・教育について
第3章 女学校時代
第4章 津田塾専門学校英文科
第5章 音楽学を志す〜東京藝術大学楽理科へ
第6章 アメリカ留学時代
第7章 留学からの帰国の旅
第8章 帰国後、IAML(国際音楽資料情報教会)日本支部設立へ
第9章 教職と研究活動、翻訳のこと
[書評]
音楽史を学んだことがあれば村井範子の名前はどこかで目にしているはず。そう、ミラーの『音楽史』やプレンティスホール音楽史シリーズ(いずれも東海大学出版会)の訳者に名を連ねているのが彼女である。しかし村井は単なる翻訳家ではない。我が国の音楽学研究が本格的に始まった黎明期から同研究の発展に尽力した音楽学者だった。本書は中西紗織が聞き手となって村井自身が人生を語るという対話形式で進んでゆく。
驚きなのは彼女のアクティヴな生き方である。それこそ世界中を飛び回り知識を深め見聞を広めるのだが、その源になっているのは当時でも群を抜く英語力とリベラルかつポジティヴな考え方にあった。英語力は東京藝大入学前の津田塾で習得したものであり、リベラル思考は両親から影響を受けたもの。そしてポジティヴな発想は郷里広島に原爆が投下されたのを目の当たりにしたことに起因するようだ。一瞬にして焼け野原になり、多数の恩師や知人が即死したのを知り「なるようにしかならない」と悟る。だから慣れない異国での一人旅も臆することなく敢行できたのだ。
1979年に国際音楽資料情報協会(IAML)の日本支部設立に貢献したのも外国を見聞した成果のひとつ。欧米の状況を知り、日本のライブラリアンも高度な専門知識を有する人材の育成が急務と感じ、また研究者が図書館において十分時間をかけて研究できる場が必要と考えたからである。
村井の人生を通じて日本の音楽学研究の流れを知ることができると思う。
(中村 靖)
(音楽現代2021年3月号「Book Review」より)
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